糖尿病の治療は患者さんの病態にあわせ最も適切な治療方法が選択されます。 食事療法,運動療法 薬物療法 インスリン注射療法 |
糖尿病のコントロールの目標
優 | 良 | やや不良 | 不良 | |
空腹時血糖 | <120 (mg/dl) | 120〜140 | 140〜160 | 160< |
食後2時間血糖 | <160 (mg/dl) | <200 | <250 | 250< |
HbA1c | <6.0 (%) | 6.0〜7.0 | 7.0〜8.0 | 8.0< |
運動によりブドウ糖消費が増え,インスリン感受性も高まり血糖値が降下します。 ![]() 糖尿病性網膜症や腎症などの合併症がある患者さんの急激な運動は,合併症に 悪影響を及ぼします。糖尿病は狭心症や心筋梗塞,脳梗塞症などを発症しやすく, 運動はそれらを誘発してしまうこともあります。運動を始める前に必ず主治医に相談 して,自分にあった運動量を決めていただいた方がよいでしょう。 ![]() 合併症に問題がなければ,ウオーキングやジョギング,自転車や水泳などが良い でしょう。時間は30分以上続けて下さい。ウオーキングは1時間程で十分でしょう。 歩数計などを用いて15.000歩ほどが目標です。強さは大体40〜60%程でOKです。 運動は食事直後より,食後1時間ほどの血糖が上がる時間に行うのが理想的です。 また,薬物治療中の患者さんは,くれぐれも低血糖に注意して下さい。必ず砂糖 などを携行して運動するようにしましょう。 |
薬物療法には経口糖尿病薬によるものとインスリン注射によるものの2種類があります。 経口糖尿病薬 現在5種類の作用薬剤が主に使用されています。 インスリン分泌が認められない1型糖尿病の患者さんには無効です。 スルフォニル尿素薬(SU剤) ビグアナイド剤 αグルコシダーゼ阻害剤 インスリン感受性改善剤 速効型インスリン分泌刺激剤 ![]() 現在多くの施設で使用されている経口血糖降下剤です。 膵臓のインスリンの分泌細胞を刺激して血糖を降下させます。 インスリン分泌増加に伴い食欲亢進と体重増加が問題となります。 服用の方法:基本的に食前15〜30分前に服用します。 軽度の血糖値の軽度上昇例ではまず, @ グリミクロン錠(40mg) 1/2〜1錠 1日1回朝食前から開始。 その後血糖値を測定しながら… A グリミクロン錠(40mg) 2錠 1日1回朝食前まで増量。 効果が弱いようであれば… B オイグルコン(=ダオニール)錠 1.25mg 1日1回朝食前に変更。 血糖値,HbA1c値をみながら… C オイグルコン錠 2.5mg 朝食前1日1回 D オイグルコン錠 3.75mg 1日2回(朝食前2.5mg,夕食前1.25mg) E オイグルコン錠 5.0mg 1日2回(朝食前2.5mg,夕食前2.5mg) F オイグルコン錠 7.5mg 1日2回(朝食前5.0mg,夕食前2.5mg) これ以上増量しても血糖降下作用の変化はありません。 ![]() 血糖降下作用は従来のオイグルコンと同等ですが,インスリン分泌を刺激すると ともに,末梢におけるインスリン感受性を高める2つの効果を持つ新しい薬剤です。 経口血糖降下剤服用による副作用の一つである肥満がないのが特徴とされます。 SU剤(オイグルコン)のインスリン分泌効果+インスリン感受性効果を有するので 積極的にオイグルコンから変更すべき薬剤でしょう。 服用の方法:オイグルコンと同じく食前15〜30分前に服用します。(食直後もOK) 変更方法(アマリールをやや低容量に設定しました。) @ オイグルコン 1.25mg → アマリール 5mg (10mg錠の1/2錠) A オイグルコン 2.5mg → アマリール 10mg ![]() ブドウ糖の吸収を抑制し,肝臓からのブドウ糖放出を妨げて血糖を低下させます。 SU剤と併用することもあります。単独使用では低血糖を起こすことはありません。 肥満した糖尿病患者さんに使用されることが多い薬剤です。 肝硬変やアルコール多飲の方,肺疾患患者さんは乳酸アシドーシスという昏睡が 起きることもあるので注意を要します。 ![]() 小腸においてのでんぷん,ショ糖などの消化吸収を遅延させて,食事後の高血糖を 抑える働きがあります。副作用として腸内ガスが増え,腹がはっておならが出ます。 この副作用は服用開始4〜5日に多く,それ以後になると体が慣れてくるようです。 低血糖を起こした場合,砂糖(ショ糖)を摂っても低血糖は改善しません。単糖類の ブドウ糖を摂取する必要があります。 服用の方法:各食直前に服用します。 ![]() 筋肉などのインスリン感受性を強化して,インスリンの血糖降下作用を高めます。 糖尿病患者さんで,肥満した方(BMI>24),インスリン高値(>10U/ml食前)の方で 血糖が高いインスリン抵抗性のある患者さんにより良い適応となります。 服用の方法:食後または空腹時に服用します。
![]() SU剤に比べ血糖降下の発現時間が早く,作用時間が極めて短いのが特徴です。 1日3回,各食直前に服用して,各食後の血糖の上昇を抑える作用を示します。 レセプターが同じとの理由から,SU剤との併用は無効とされています。 服用の方法:各食事の直前に服用します。 インスリン 以前はブタやウシの膵臓から抽出したインスリンを使用していましたが, 現在では合成ヒトインスリンが使われています。 最近は携帯可能なペン型のインスリンが主流です。 ![]() 必ずインスリン治療を行う場合… @ 糖尿病性昏睡 A 1型糖尿病(特に急性発症期) B 重度肝障害,腎障害の合併 C 重症感染症の併発 インスリン治療を行う場合… @ 著明な高血糖 A 尿ケトン体強陽性 B 経口血糖降下剤無効例 C 最近では全ての糖尿病に…
![]() 速効型…注射後速やかに血糖降下作用が発現します。 中間型…ゆっくりと半日ほど血糖降下作用が持続します。 2相型…速効型と中間型を混合したタイプです。 持続型…ほぼ24時間血糖降下作用が持続します。 ■ ペン型インスリン注入器で使用するインスリン ■ 従来の注射器で使用するインスリン
![]() バイアル型のものには1 ml中に100単位と40単位入っているもの 2種類あり,各々専用の注射器がありますので注意が必要です。 ![]() ![]() @ 中間型インスリン朝食前1回法… 最近は用いられません。古い注射方法です。 A 中間型インスリン就寝前1回法… 朝食前の血糖が高い2型糖尿病に用います。 初めてインスリンの自己注射を開始するときに 行われることもあります。 B 中間型インスリン朝夕食前2回… 2型糖尿病患者さんに用いられます。 C 混合型インスリン朝夕食前2回… Bの方法に更に速効型インスリンの効果で 食後血糖上昇も抑えようという方法です。 D 速効型インスリン各食前3回法… 早朝空腹時血糖値がそれ程高くない2型 糖尿病患者さんに,追加インスリン分泌を 補充する,現時点での最適の治療法でしょう。 E 強化インスリン療法 … 生理的インスリン分泌に最も近い注射法です 各食前速効型+眠前中間型 ので,1型糖尿病患者のみならず,インスリン 分泌が著しく低下した2型糖尿病患者さんにも 使用されます。 ![]() インスリンは毎日ご自分で注射していただくのが原則です。主治医の指示により 変わりますが食事の15分前に注射します。注射する部位は普通はおなかですが, ふとももでも結構です。皮膚を軽くつまんで注射して下さい。 同じ部位に注射を 続けると皮膚が硬くなりますので,毎日注射部位をずらして下さい。消毒をした方 がよいのは当然ですが,消毒しなくても問題ありません。
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低血糖とは血糖値が50mg/dl未満と定義されています。 薬物治療中の患者さんは低血糖に注意が必要で,ひどい場合は意識不明になります。 まれに何の前ぶれもなく意識が消失する場合もありますので,普段の注意が必要です。 低血糖は放置すると危険ですが,正しい予防と処置をすれば心配することはありません。 ![]() 血糖が低下すると,空腹感,脱力感,冷汗,震え,イライラ感などが現れて,さらに 怖い形相で,異常な行動や言動をとることもあります。ひどい場合にはけいれんを 起こし昏睡状態になり意識がなくなります。普通は食事のタイミングが遅れた食前 の空腹時に起こり,食事をとると症状が明らかに改善するのが低血糖の特徴です。 ![]() それまで高血糖状態が続いていた患者さんに,経口血糖降下剤やインスリンの 治療を開始すると,数日後血糖が僅かに低下しただけで,血糖はいまだ高いにも かかわらず空腹感,冷汗,イライラ感などの低血糖症状が現れることがあります。 血糖値が良好にならない時点で危険な低血糖と勘違いして,血糖を上げる処置を しては糖尿病治療の意味がなくなります。この低血糖様症状は本来の低血糖との 判別は難しく,発症した時の自己血糖測定が必要となります。血糖値が低ければ 低血糖の処置を行い,血糖値が高ければ経過をみてもよいでしょう。 ![]() 変だと思ったら,何はなくともジュース,飴や砂糖を服用しましょう。低血糖の放置は 大変危険です。低血糖が起きたら,軽いうちに処置しなければなりません。前述した ように商品名グルコバイを服用している方の低血糖は,ブドウ糖でなければ血糖が 上がりませんので必ず携帯して下さい。時には急に意識を失う,強い低血糖症状が 起きる可能性もあるのです。「私は糖尿病です。意識がなくなった時には甘いものを 口にふくませて下さい。」と書いた糖尿病手帳を携行しておいた方がよいでしょう。 糖尿病患者さんで意識が失くなる原因は低血糖だけではないのですが…
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